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Great Urban Places in Asia 46 - クアラルンプール Kuala Lumpur 1 [アジアの都市探訪]

 クアラルンプールの「クアラ」は泥、「ルンプール」は川の合流点という意味である。通称KLと呼ばれ、初めはスズ鉱山の拠点都市として開発された。泥合流とは現代都市らしからぬ名前だが、今日では東南アジアでも有数の活力を持ち成長を続ける大都市で、非常に多様な人たちが合流する場である。
クアラルンプールはグリーントロピカルシティと呼ばれ、市内の随所に豊かな緑がある。広場や公園には巨木や熱帯性植物が生い茂っている。ヤシ並木の緑は、路上に木陰をつくるには実用的ではないが、様々な色彩や形が乱舞する建築ファサードを束ねる濃緑の帯となり、東南アジアらしい都市景観をつくりだしている。
 市域は244平方キロメートル、人口は177万人(2015)で、広域都市圏人口は724万人である。

ショップハウス Shophouse
 ショップハウスとはマレーシアはじめ東南アジアに多く見られる建築様式で、一般的には2~3階建ての「長屋」であり、その名のとおり1階は各種の店舗やレストランとして用いられる場合が多い。間口は狭く奥行きが深く、中庭や奥庭を持つ。間口が狭いのは間口幅に応じて課税額が決められたためと言われる。これは世界各地の商業地で共通してみられることである。

 2階以上は主に住宅で、区分ごとに所有権が異なる世帯が住む場合や、一体的に所有され寮などとして用いる場合がある。近年、伝統的で良質なショップハウスの価格は、経済発展に伴い高騰しているという。各区分を仕切る壁は防火壁としての機能も持っている。ショップハウスの連なりの長さは様々であるが、道路に沿ってカーブしながら延々と連なっているものもある。

 ショップハウスは16世紀から存在し、18世紀後半以降の英国植民時代にクアラルンプールほかマラッカ、シンガポールなどの都市で発展した。ショップハウスが連なって建てられた理由のひとつは、建築条例によって1階部分を5フィート(1.5m)以上セットバックし、そこを回廊とし歩行者の通行に用いたことである。これは、暑く雨が多い東南アジアでは理にかなうことだ。今でも回廊が付いているショップハウスが多いが、間口ごとに仕切られてしまい、通路としての機能を失い装飾化したものもある。

 ショップハウスは長い歴史を持つため、その構造やファサードの表現も多様で、各時代のショップハウスが街に残され使われていることが街の表情の豊かさにつながっている。ファサードの装飾や色彩はマレー、中国、ヨーロッパ、現代コスモポリタン文化などの影響を受け、年代別に混在あるいは融和し、独特で多様なものとなっている。構造は伝統的には煉瓦造や木造だが、近年のものには鉄筋コンクリート造もある。仕上げは、伝統的には白石灰で仕上げられたものが多いが、20世紀中ごろには様々なパステルカラーのペイントが広まり、原色の使用も多い。

 KL市内のファッショナブルな商業、エンターテインメント地区では、ショップハウスが区分ごとにリノベーションされている。ファサードデザインはさらに多様化し、ポストモダンあり、ガラスカーテンウォールによる現代調ありである。壁面や屋根には、大型でカラフルな広告やサインが多数取り付けられ、街並み景観を刺激しているが、広告物の幅は建物区分とほぼ一致し、取り付け高さもだいたいそろっているなど、ファサードデザインとほどほどの調和が保たれている。

 ショップハウスはかように様々だが、スケールと形態は元来の状態が保たれ、調和感がありながらも個性にあふれた場が作り出されている。それは、街が特定少数の事業者によって大規模・急速に建造されたのではなく、長い歴史の中で、数えきれない多くの人たちによって、その時代を反映した構造や装飾が用いられ、地元の知恵と技術によって少しずつ改修され、使い続けられてきた結果である。

 比較的近年に建設され、大型で上層階が店舗やオフィスとして用いられているものはショップオフィスとも呼ばれる。マレーシアでは20世紀後半以降、元来のショップハウスの枠を超えた大規模ショップハウスが都市の再開発や郊外開発で建設され続けている。

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ヨーロッパ調のファサードを基調とし、現代的な看板のあるショップハウス


(続く)
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